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実験操作

[実験0] ピペットマンの較正

実際の実験を行う前に、溶液の体積を計るピペットマンの較正を行う。
  1. 100mlか50ml容量のビーカーをふたつ準備し、一方に純水を30〜40ml入れる。 空のビーカーを、化学天秤に載せて、ゼロ点をセットする。
  2. 較正するピペットマンの最大容量(5000、1000、200$ \mu l$)に合わせ、純水を取っ て、天秤内のビーカーに入れて、重さを計る。再度、ゼロ点をセットし直し、 同じ操作を5回繰り返す。
  3. 測定結果のバラツキが極端に大きい場合には、操作自体に誤りがある可能性もあ る。また、ピペットマン自体が故障している(例えば、内部のO-リングの損傷で、 液洩れするような場合)可能性もあるので、担当教員または TA に申し出る。
  4. 測定結果に再現性があれば、測定の平均値を、以後の操作で用いる。例えば、 1000$ \mu l$のピペットマンの測定値が、950$ \mu l$であった場合には、以後、 このピペットマンで500$ \mu l$を秤量する場合は、550$ \mu l$にセットして使う。

[実験1] 水の散乱の測定と、ローダミンBのエタノール溶液の蛍光スペクトルおよび励起スペクトルの測定

  1. ローダミンBのエタノール溶液の原液(既に準備されている)から、 100$ \mu$Mの濃厚なエタノール溶液を2ml程度、4mlのバイアル瓶に作成する。 M(molar、モーラー)という単位は、mol/lを表す。 エタノールは、試薬ビンから30ml程度のバイ アル瓶に移したものから、ピペットマンで加えてよい。大きな試薬ビンに直接 ピペットなどを差し込むことは、試薬全部を汚染してしまう可能性があるので、 極力避ける。ローダミンBの溶液が均一になるように、試験管ミキサーで激しく撹 拌する。出来た溶液には、テープを貼ってサインペンで溶液の種類・濃度・作 成日・作成者などを書き込んでおく(実験2でも用いる)。
  2. 4(1).蛍光分光光度計の光学系と、4(2).スペクトル測定の実験条件を熟読し、 これから、何を測定する装置をどのように制御しようとしているのかを理解する。 使用する蛍光分光器の立ち上げ手順(FP-6300は4(3)、RF-1500は4(5))に従って、 装置を立ち上げる。
  3. 測定条件の設定画面(FP-6300は図10、RF-1500は図 15と図16)を開き、どのような測 定条件が制御可能であるのかを確認する。
  4. 励起波長を550nmに移動して、シャッター(FP-6300では励起側のみ)を開けて、分 光器の試料室を開けて、緑色の励起光が出ていることを確認する。また、 白紙の破片などを用いて、励起光がセルホルダーのどこに照射されるのか、 測定のためには最低どの程度の試料の量があれば良いのかを確認する。
  5. ローダミンBの蛍光スペクトルを測定する前に、蛍光分光器の特性や、波長 とエネルギーとの関係などを理解するために、水のレーリー(Rayleigh)散 乱とラマン(Raman)散乱を測定する。 石英セル13に、純水14 を測定に必要な量だけ入れて、分光器のセルホルダーにセットする。
  6. 励起波長を300nm、発光波長範囲を280〜650nm、感度(Sensitivity)をHigh にセットして、発光側をスキャンして、発光スペクトルを測定する。300nm 付近に強いピーク、それより数10nm長波長側に弱いピーク、600nm付近にや や強いピークが観測されるはずである。300nmのピークが飽和したり、弱す ぎたりした場合は、感度やバンドパスを変えて、再度測定する。300nm付近 のピークはレーリー散乱と呼ばれる散乱で、分子によって励起光と同じエ ネルギー(波長)で散乱される成分である。レーリー散乱よりもやや長波長 側のピークはラマン散乱と呼ばれる散乱で、分子の振動エネルギーの分だ け励起光とずれたエネルギーで散乱される成分である。600nmの成分は、 300nmのレーリー散乱が、発光側の回折格子で回折条件を満たしてしまった ために観測される artifact15 である。次の測定を開始する前に、このスペクトルを保存し、どのような 試料をどのような条件で測定したスペクトルなのかをノートに記録してお く。以後、すべての測定において、測定したスペクトルは保存して、条件 等を記録しておく。
  7. 励起波長を310nmに変えて、他の条件は変えずに、発光スペクトルを測定 する。次に、励起波長を350nmに変えて、発光範囲330〜500nmの範囲で、 更に、励起波長を400nmに変えて、発光範囲380〜550nmの範囲で、発光 スペクトルを測定する。これらの測定を通じて、散乱(レーリーもラマン も)は、励起波長に依存して、その位置が変わることを理解する。これから 測定する蛍光色素の蛍光スペクトルは、蛍光色素の電子状態の変化に対応 する光の吸収や発光であるので、励起波長の位置をわずかに変えても、発光 のピーク位置はシフトしない。ただし、実験2以降のスペクトルの測定では、 リポソームや試料中の気泡などによって、蛍光よりも強い散乱が出る場合 がある。このような場合に、発光と散乱を区別するためには、励起波長や 発光波長を少し変えた場合に、スペクトルのピークがシフトするか否かで判断 可能であることを理解する。なお、ここで測定した水の散乱のスペクトル は、6(2)の考察の視点に基づいて、解析する。

  8. 1で作成した原液をエタノールで薄めて、蛍光測定に用いる1$ \mu$Mの希薄な溶液 を作る。 1$ \mu$Mの溶液を石英セルに移し、ローダミンBの蛍光スペクトルを測定する。
  9. 励起波長を520nm、発光波長範囲を500〜700nmにセットして、発光スペクトルを 測定する。純水の測定の条件では、ピークが飽和してしまうはずで あるので、感度を落として再度測定する。
    注意:RF1500の場合、スペクトルの強度が、感度がLOWでバンドパスを 最も狭くした場合でも飽和したときは、発光側にNDフィルター (30%と5%透過の2種類を準備してある)を入れて、光量を落とす。
  10. 発光スペクトルのピークに発光波長を合わせ、励起スペクトルを測定する。励 起スペクトルのスキャン範囲は、発光波長よりも短波長側(高エネルギー側) だけしか意味がない。最短波長は、分光器の限界に近いところまで出来るだけ 広くとる。一般に、励起スペクトルの短波長側の小さなピークは、メインのピー クに比較して強度が極端に弱いので、その領域だけ拡大して表示することも必要で ある。
  11. 励起スペクトルのピークに励起波長を合わせ、再び発光スペクトルを測定し、 上の結果と比較する。その他の励起波長(励起スペクトルの短波長側の小さなピー クなど) でも発光スペクトルを測定してみて、励起波長を変えると発光スペクトルの強 度や形状がどのように変化するのか(あるいは変化しないのか)を観察し、そ の原因を考える。励起波長とともに波長が変わる成分は、散乱であることに留 意する。
    注意:励起波長を短波長(高エネルギー)に設定した場合には、その近 傍で発光する可能性もあるので、発光波長範囲は、その波長付近から取る ように、毎回、変更すること。
  12. いくつかの発光波長で励起スペクトルを測定し、発光波長を変えると励起スペ クトルの強度や形状がどのように変化するのか(あるいは変化しないのか)を 観察し、その原因を考える。この時、上で測定した発光スペクトルで全く強度 がない波長に発光波長をあわせても、有効な励起スペクトルは測定出来ず、現 われるのは散乱の成分のみであろう。ブロードな(=幅の広い)発光スペクトルの短 波長側や 長波長側に発光波長を合わせたときに、励起スペクトルが変化するかどうかも 観察する。
  13. 以上の操作を通して、蛍光の発光スペクトル・励起スペクトルとは何であり、 観測されたスペクトルから、光による分子の励起状態への遷移とその後の発光 の過程にどのような特性があるのかを、Jablonskiのダイアグラムから理解す る。例えば、高次の電子状態へ励起した場合に発光はどこから起こるか、発光 スペクトルの形状が励起エネルギーなどに依存するのかどうかなどを考える。
  14. その他の測定条件(バンド幅、感度、スキャンスピードなど)を色々に変えてみて、 スペクトルを測定する。スペクトル形状が測定条件によって見かけ上どのよう に変化しているかを観察し、その原因について考察する(このテキストだけでなく、 分光器の取扱説明書、参考文献も参考にする)。 測定したスペクトルは、一旦分光器のメモリーに保存し、まとめてパソコン に転送する。測定条件を変えた場合にスペクトルがどのように変化するかの 細かい点を見るためには、スペクトル間の差や比をとる、面積や最大強度 などで規格化してプロットするなどの方法があるので、色々と試してみる。

[実験2] ローダミンBのグリセリン中での蛍光異方性の励起波長依存性の測定

  1. 実験の効率上、実験4のDPPCとDOPCのリポソーム作成(クロロ ホルムを蒸発させるまで)の操作を、以下のローダミンBのグリセリン溶液 を作成する操作と同時に行って、クロロホルムを真空デシケーター中で完 全に蒸発させている間に、実験2のスペクトル測定を行った方がよい。
  2. [実験1]で作成した$ 100\mu M$のエタノール溶液から、ローダミンBのグリ セリン溶液($ 1\mu M$)をつくる(濃厚なエタノール溶液をグリセリンに溶かす。 グリセリンに対してエタノールが1%以下であれば、溶媒として無視してよい。)。 グリセリンは粘性が高く、簡単には均一な溶液にならないので、バイアル瓶を 試験管ミキサーでよく撹拌する。石英セル16に移 し、試料室にセットする。
  3. 発光スペクトルと励起スペクトル(励起スペクトルは220nmから測定する) を測定する。実験1で測定したローダミンBのエタノール中のスペクトルと比較し て、スペクトル形状が、大きくは変わっていないことを確認する。

  4. 4(4).偏光子を使った測定に従って、偏光付属装置を試料室にセットする。
  5. 発光スペクトルのピークに発光波長をセットし、VV、VH、HV、HH、VVの各偏光で励 起スペクトルを測定し、ファイルにセーブしておく。後で、各スペクトルを40、 41式にしたがって演算する場合に、あまり強度が少ないと、計算によるデジタ ル誤差が生じるので、感度を上げて強度をかせぐ。感度を''HIGH''にすると飽 和してしまうし、感度が''LOW''だとシグナルが弱い場合には、バンド幅を広 げて(あるいは狭めて)調節する。また、ゼロ点が合っていないと、スペクト ル強度がマイナスになってしまう場所が生じるので、感度の調整後、ゼロ点補 正を行ってから測定する。最初と最後の VV のスペクトルを比較し、変化してい ないことを確認する。有意に変化している場合には、測定中に何らかの 状態が変わってしまったためであり、そのままでは、途中の偏光スペクト ルも信用できないので、再度、測定する。変わってしまう原因で、最もあ りそうなものは、グリセリンの粘性が高いために、色素が均一に溶けてい ないことや、グリセリン中に残った気泡が徐々に抜けていったために、散 乱が減り、励起光強度が変わったため、などが考えられる。
  6. データをSTEXに転送し、g-factor や anisotropy などのプログラムを用いて、データ を解析する。まず、 分光器の偏光に対する感度補正を行うためのG因子を求める。G因子は、通常発光 波長に依存し、励起波長には依存しないが、ここでは励起スペクトルを用い てそれを確認する。G因子とは、散乱平面(励起光の方向と検知する蛍光の方 向を含む平面)と平行・垂直な偏光方向をそれぞれH、Vで表し、例えば、励起波長 ($ \nu_{ex}$)に依存した、H偏光に対するV偏光の蛍光強度を $ I_{HV}(\nu_{ex})$と表すと、

    $\displaystyle G(\nu_{ex}) = I_{HV}(\nu_{ex}) / I_{HH}(\nu_{ex})$ (40)

    と定義される。このG因子を含めて、蛍光異方性は、実験的に、

    $\displaystyle r(\nu_{ex}) = \frac{I_{VV}(\nu_{ex}) - G(\nu_{ex}) I_{VH}(\nu_{ex})}{I_{VV}(\nu_{ex}) + 2G(\nu_{ex}) I_{VH}(\nu_{ex})}$ (41)

    と求められる。
  7. G因子、蛍光異方性、偏光に依存しない蛍光強度(41式の分母)の励起波長依存 性をプロットしてみる。550nmで励起した場合の蛍光異方性は、文献値では室 温で、0.36±0.01であるので、これと実測値を比較する。また、蛍光異方性の励起波 長依存性について考察する。

[実験3]ペリレンのグリセリン溶液の蛍光異方性の測定

[実験4] ペリレンのDPPCおよびDOPC脂質二分子膜リポソーム中での蛍光異方性の測定

実験3と4は、温度変化に時間がかかるので、同時に行う。

  1. ペリレンのストック溶液はあらかじめ作製されているものを利用する。
  2. 試料の調製法、脂質リポソームの作り方にしたがって、DOPCとDPPCの脂質2分 子膜リポソームを作製する。脂質濃度100$ \mu$Mのものを2mlつくる。その際、脂 質と色素(ペリレン)を良く混合させるため、クロロホルムを蒸発させる前に、 ペリレンの保存溶液を1$ \mu$Mになるように加える。クロロホ ルムを完全に除去するためにロータリーポンプで1時間以上真空乾燥させるま では、蛍光分光器を使う日の前の実験日に行っておく。そのバイアルにきつく ふたをして、冷凍庫に入れておく。
  3. 温度変化の測定は15℃から開始するが、FP6300につなげてある恒温循環水槽の 冷却に時間がかかる(「取扱説明書」(19p))ので、実際の測定を行う日は、 出来るだけ早く、水温を15℃に設定して、「RFE.」キーを 押しておく(キーを 押してから冷却器が作動するまで、30分かかる)。また、最初は分光器に水を 循環させる必要はないので、「PUMP」キーはOFFにしておく。
  4. 試料の調製法、脂質リポソームの作り方にしたがって、冷凍庫に保存してあっ たバイアルに水を2ml加え、MLVリポソームを作製する。この時、DPPCについて は、いわゆる相転移温度以上で操作する必要があるので、超音波発生器の水温 を55℃程度に設定する(DOPCについても同じ温度で作成して構わない)。
  5. グリセリンを2mlバイアルにとり、ペリレンのストック溶液を、濃度が 1$ \mu$Mになるように加え、試験管ミキサーで激しく撹拌する。グリセ リン溶液は粘性が高いので、湯の中に少し浸し、温度を上げてから、撹拌する と良い。
  6. 3種の試料を石英セルに移し、脂質リポソーム溶液にはマイクロスターラーチッ プを入れ、溶媒の蒸発を抑え異物の混入を防ぐために、石英セルにパラフィルム などでふたをする。
  7. 蛍光分光器のスイッチをONにする。偏光付属装置がセットされていない場合は、 保管容器から取りだしセットする。
  8. グリセリン溶液を用い、室温で、蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定 する。ペリレンは、励起・発光スペクトルともいくつかのピークが見られるは ずであるが、(散乱の影響を少なくするため)励起波長と発光波長がバンドパ スよりも大きく(4倍以上)離れたピークを選択する。しかし、あまりに離れた 波長の組を選択すると蛍光強度が弱くなって正確な測定ができなくなるので、 蛍光強度との兼ね合いで適切な波長を選択する。決めた励起波長で、2種類のリ ポソームについても、発光スペクトルを測定する。3種類の試料の色素濃度 は同じなので、同程度の発光強度が得られていることを確認する。 この時測定したスペクトルは、必ず、保存しておく。 以下の測定では、スペクトル スキャンは行わず、このように決めた励起波長と発光波長での偏光測定を行う。
  9. 恒温水槽の水温が15℃になっているか確認する。まだ冷えてなくて、出来るだけ 早く測定を開始したい場合には、氷で水温を15℃まで冷やすことも可能である。 氷は、隣の電気伝導度の実験室に製氷器があるはずなので、借用する。
  10. 水槽内のセル立てに3つの試料が入った石英セルを入れる。恒温循環水槽の 「PUMP」キーをONにして、水を分光器に循環させ、測定を開始する。
  11. 上の操作で決めた励起波長と発光波長で各偏光に対応する光強度を測定する。 測定は、4(4)(ii)の波長を固定した測定で行う。 試料をセットし、VV,VH,HV,HH,VVの順に偏 光子をまわしてデータの値を読みとり、ノートに記録しておく。最後にVVをも う一度測定するのは、光照射や温度の変化等によって強度に変化があるか否か を確認するためである。ひとつの試料が終わったら、すぐに次の試料について 同じ測定を行う。設定温度が室温から大きく離れているときは、水槽と試料室 のセルホルダーの温度にずれがあるので、試料室に移してからできるだけ早く データを取得した方がよい。
  12. 3種類の試料について、各々5個の偏光データを取得したら、水槽の温度を25℃に 上げる。画面に表示されている時間変化測定のデータは、一応、保存しておく。
  13. 温度が安定したら、3種類の試料について、各々5個の偏光データを取得する。 温度は、15、25、35、40、42、45、55、65℃の順に測定する。室温より高温で の温度制御に、冷却器は必要ないので、35℃に設定したときに、「RFE」キー を押して、冷凍器をOFFにする。温度を大きく上昇させる時、恒温循環水槽の ヒーターだけでは時間がかかり、急いでいる場合には、湯沸器の湯を水 槽内に入れてもよい。そうする場合には、恒温循環水槽背面のドレインバルブ から水を抜きながら、水槽内の水量を調節する。すべての温度で、3種類の 試料について、各々5個の偏光データを取得したら、実験は完了である。
  14. 解析においてまず算出したいのは、各試料各温度における蛍光強度および蛍光 異方性の値である。最初と最後に得たVVの値が変わっていなければ、4つの偏 光データを用いて強度および蛍光異方性の値を算出する。大きく変わっている 場合には、直線補間17などによって、VH,HV,HHの値を補正して用いることが必要である。 aniso_vs_temp というプログラムには、この機能が組み込まれている(詳し くは、aniso_vs_tempのプログラムの内容を見ること。) 蛍光異方性は41式にしたがって計算する(但し、波長は固定している ので、励起波長依存性はない)。蛍光異方性の温度依存性についての原因につ いて考える。蛍光強度は41式の右辺の分母に対応する。蛍光強度は、 次に述べるように、蛍光寿命を見積もるためにも用いる。

     温度を変えると溶媒の粘性だけでなく、蛍光寿命も変化する。本実験装置 (定常光の測定)では、蛍光寿命を直接に測定するのは不可能であるが、寿命 が一成分(緩和が単純な指数関数)であれば、全蛍光強度の測定値から次の式 によって、温度による蛍光寿命の変化を算出できる。

    $\displaystyle \tau = \tau_S \frac{I_{VV}+2 G I_{VH}}{(I_{VV}+2 G I_{VH})_S}$ (42)

    ここで、$ \tau_S$ $ (I_{VV}+2 G I_{VH})_S$は、標準温度(ここでは25℃と する)での蛍光寿命と全蛍光強度である。$ \tau_S$の値は文献値を用いる (APPENDIXを見よ)。

    次に、蛍光異方性のミクロ粘性との関係にもとづいて、グリセリン溶液 について、変形ペラン・ウェーバーのプロットをしてみる。粘性の値は、参考 文献2を参照する。τの値として文献値を用いれば、ペリレンの回転分子体積 が定まる。計算の際、数値だけを計算するようなことをせず、必ず単位も式の 中に入れて計算すること。これにより、Vが体積の次元になっていることを確 認せよ。ペリレンの比重を1.35と仮定して、算出した分子体積と比較してみる。 次に、脂質リポソームの蛍光異方性の値を温度に対してプロットする。 また、DPPCの相転移温度を文献の値と比較してみる。余裕があれば、グリセ リンの結果から外挿して、縦軸の蛍光異方性の値を粘性に変換してみると、脂質二分 子膜の炭化水素鎖の部分がどの程度のミクロ粘性を持っているのかを、一般的 な溶媒の粘性などと比較して考えてみることができる。

[実験5] DOPC脂質二分子膜リポソーム中でのローダミンラベル脂質とNBDラベル脂質間の蛍光エネルギー移動の測定

[実験6] DOPCのSUVリポソームのポリエチレングリコールによる膜融合の観察

[実験5]と[実験6]も1日のうちに測定を終わらせた方がよいので、並行 して手順を説明する。
  1. 測定を行う前の実験日に脂質リポソームのフィルムをバイアルに作製して冷凍 庫に保存しておく。作製するのは、次のものである。以下、ローダミンラベル したDOPEをRh-DOPE、NBDラベルしたDOPEをNBD-DOPEと表記する。作りたい水溶 液の量が違うので注意すること。
    1. 水溶液40ml中でDOPC/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M
    2. 水溶液40ml中でDOPC/NBD-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M
    3. 水溶液2ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/0.1$ \mu$M
    4. 水溶液2ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/0.2$ \mu$M
    5. 水溶液2ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/0.4$ \mu$M
    6. 水溶液2ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/0.7$ \mu$M
    7. 水溶液40ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/1.0$ \mu$M
    8. 水溶液2ml中でDOPC/NBD-DOPE/Rh-DOPE=100$ \mu$M/1.0$ \mu$M/2.0$ \mu$M
    9. 水溶液100ml中でDOPC=100$ \mu$M
  2. 前日に作製しておいたリポソームのフィルムに水を2ml加え、室温で超音波を 30秒間、試験管ミキサーでの撹拌を30秒間、のサイクルを3〜4回程度行う。溶 液が白濁、または色素の色に濁るはずである。蛍光の測定は、すべて、脂質濃 度を100$ \mu$M、2mlで行うので、(a),(b),(g)は20倍の濃度、(i)は50倍の濃度の リポソーム溶液を作製したことになる。
  3. (a),(b)を20倍に薄めたものを2ml作り、それぞれの発光スペクトルと励起 スペクトルを測定し、共鳴エネルギー移動が起こる条件について考える。
    30式からわかるように、共鳴エネルギー移動速度はドナーの発光スペクトル とアクセプターの励起スペクトルの重なりに比例するので、NBDの発光スペクトルとロー ダミンの励起スペクトルの重なりを確認する。
    共鳴エネルギー移動が起きたかどうかを調べるためには、ドナー(NBD)だけを 励起し、アクセプター(ローダミン)が励起されない励起波長を選択して、発光 スペクトルを測定する必要がある。NBDの励起スペクトルのピークの近傍で、 ローダミンの励起スペクトルの極小の波長を励起波長として選ぶ。実際にその 波長で、ローダミン入りリポソーム((a)を薄めたもの)の発光スペクトルを取っ てみて、どの程度励起されるのかを確認する。
    その後、両者を混ぜて試験管ミキサーで撹拌し、上で決めた励起波長で、 発光スペクトルを測定してみる。ただ混ぜただけでは、エネルギー移動は 起きないことを確認する。
  4. (g)を20倍に薄めたものを2ml作製し、それと(c)〜(h)までの発光スペクトルを 測定する。励起波長は、上で求めた、NBDだけを励起する波長を選ぶ。ローダ ミン(アクセプター)の濃度が高くなるにしたがって共鳴エネルギー移動が起 こってくるはずである。これらの発光スペクトルは、後の解析のためにパソコ ンに転送しておく。これで、[実験5]は終了。
  5. 次に、ポリエチレングリコール(PEG)による膜融合の実験をおこなう。共鳴 エネルギー移動の生成と解消の2種類の実験で膜融合を観察する。
  6. 準備として、PEG6000の50重量%水溶液を作製する。30mlのバイアルにPEG6000 を7g程度測り、同じ重量の水を加える。簡単には溶けないので、高温の湯で あたためて溶かす。 この操作は、実験の前日に行っておく。
  7. (a),(b),(g),(i)の濃厚脂質リポソームをリポソームの作製法にしたがって SUV化する。
  8. まず、共鳴エネルギー移動の解消の実験を行う。(g)のSUV化した溶液(20倍の 濃度のもの)100$ \mu$lと(i)のSUV化した溶液(50倍の濃度)200$ \mu$lを加えて、 PEGの濃度が、重量で0%,5%,10%,20%,30%,40%となるような水溶液を各2ml調製 する。これで、各溶液中で、ドナーとアクセプターを含んだリポソームがDOPC 脂質濃度で100$ \mu$M、DOPCのみのリポソームが脂質濃度で500$ \mu$Mになったはずで ある。各々の試料を試験管ミキサーで激しく撹拌する。
  9. PEG濃度の異なる各試料について、(4)の実験と同じ励起波長で発光スペクトル を測定する。PEGによって膜融合が進行し、共鳴エネルギー移動が解消し、ド ナー(NBD)のピークが現れることが観察される。
  10. 次に、共鳴エネルギー移動の生成の実験を行う。(8)の操作と同様に、(a),(b) のSUV化した溶液を各100$ \mu$l加えて、PEG濃度が、重量で 0%,5%,10%,20%,30%,40%となるような水溶液を各2ml調製する。各々の試料を試 験管ミキサーで激しく撹拌する。
  11. (9)と同様に発光スペクトルを測定し、膜融合が進行するのにともなって、共 鳴エネルギー移動が生成するのを観測する。
  12. (10)の操作は、ドナーとアクセプターのリポソームの濃度比が1:1の場合であっ たが、アクセプターを含むリポソームの濃度を2倍に増やした場合についても、 余裕があれば、実験してみる。
  13. さらに余裕があれば、PEG6000だけでなく、重合度の違うPEGについて、膜融合 効率に違いが現れるか否かを実験してみる。

すべての実験が終了したら、作成した水溶液、エタノール溶液は棄て て、ガラス器具などは、洗浄しておくこと


... 石英セル13
石英セルを持つ時、手垢などが測定に影響を与えないよ うに、分光器にセットした場合の励起光や観測する発光に無関係な場所を 持つようにする。すなわち、上部を持つか、または、底と上面で挟むかの どちらかで持つ。
...に、純水14
ここでの純水は、洗浄用の洗ビンな どから採取して構わない。後の実験で、リポソーム作成用の純水は、必ず、 純水製造装置から、ビーカーなどに直接採取したものを用いる。
... artifact15
実際には存在しないが、測定の問題 などが原因で見かけ上見えてしまうもの。この場合は、600nmの回折条件で は、その半波長の300nmの光も回折条件を満たしてしまうために生じる。
... 試験管ミキサーでよく撹拌する。石英セル16
実験室には、2種類のガ ラスセルが存在する。パイレックスガラス製と石英ガラス製である。違いは、 短波長側の光をどこまで透過するかで、紫外領域が重要な場合は、石英ガラス 製を用いる。この実験は、高次の電子状態への励起にも興味があるので、必ず、 石英ガラス製のセルを用いる。石英ガラス製には、''U''の刻印がある。
... 場合には、直線補間17
一般には、離散的なデータ点の途中を、直線的 に補間する方法である。この場合には、最初と最後のVVの値が変わった要因が、 時間に対して直線的に変化していると仮定して、途中のVHなどの値を類推する。

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