以上は、ドナーとアクセプターがの距離にある場合のエネルギー移動効率 であった。溶液中や膜中ではドナーとアクセプターはいろいろな距離に分布し ており、それらからの総和を観測していることになる。また、ドナーの蛍光寿 命がドナーやアクセプターの拡散運動の時間スケールに比較して長い場合には、 励起状態にある時間での分子拡散についても考慮する必要がある。詳細な導出 は省略するが、溶液内で、ドナーとアクセプターがランダムに分布していると 仮定した場合の時間に依存した全蛍光強度は、
リポソーム中にドナーとアクセプターに対応する2種の蛍光色素をラベルした 脂質を混入させた系の場合、共鳴エネルギー移動効率を測定することで、リポ ソームの融合の度合いなどを見積もることが可能である。次ページの図で模式 的に示すように、共鳴エネルギー移動を利用して、膜融合を観察するためには、 2種類の方法が考えられる。第一の方法は、ドナーとアクセプター色素をそれ ぞれ別のリポソーム中に入れておく(図の左側)。この状態では、ドナーとア クセプターの距離は著しく離れているために、実際上、共鳴エネルギー移動は ほとんど起こらない。膜融合にともなって、ドナーとアクセプター色素がひと つのリポソームに現れると、共鳴エネルギー移動が生成する。第二の方法は、 ドナーとアクセプターをあらかじめひとつのリポソーム中に入れておく(図の 右側)。この状態で、共鳴エネルギー移動が起こっているため、ドナーを励起 してもドナー自身の発光はほとんど観測されない。これに、色素を含まないリ ポソームを融合させると、ドナーとアクセプターの距離が相対的に離れるため、 共鳴エネルギー移動の効率が落ちて、ドナーの発光が観測されるようになる。 どちらの方法にも一長一短があり、膜融合の進行を実際に確認するためには、 両方を行ってみる方が望ましい。